ミャンマー憲法を読んでみる~第1章

ミャンマー憲法は全15章からなっており、今回は第1章をご紹介します。

 日本国憲法と大きな相違点として、第20条の存在がある。
 日本国憲法第9条の解釈はさておき、日本国憲法では「国軍」や「軍隊」を明文で認めていないのに対して、ミャンマー憲法第20条は「国軍は、強固で時代に即した唯一の愛国軍である」と規定している。「愛国軍」の解釈がどのように議論されているのか不勉強のため全く知識がないが、現在の情勢を踏まえると非常に気になる文言である。

 また、ミャンマー憲法第23条は「農民」の規定であり、1つの条文を設けている。
 ミャンマーにおける農林水産業は、国内総生産(GDP)の約3割を占めるそうで、ミャンマーにおいて重要な産業のひとつとなっている。また、農村部労働者人口のおよそ7割が農林水産業に従事している(2018年時点)。ミャンマーでは歴史的に農業が主たる産業であったと推測でき、そのような背景から第24条とは別にこのような規定が設けられたのであろうと推測する。

第1章 国家の基本原則

国家
第1条
 ミャンマーは、主権を有する独立した国家である。

第2条
 国家をミャンマー連邦共和国と称する。

第3条
 ミャンマー連邦共和国は、多数の民族が共存する国家である。

第4条
 国家主権は、国民から発生し、国全体に及ぶ。

第5条
 領土、領空及び領海からなる国境は、憲法の発効日に存在するものと同一とする。

基本原則
第6条
 国家は、以下の事項等を目標とする。
 ⑴連邦の分裂を認めないこと
 ⑵国民の結束を崩壊させないこと
 ⑶国家主権の堅持
 ⑷真正かつ規律正しい複数政党制民主主義の発展
 ⑸法の下の平等、自由及び平等という普遍的価値のさらなる発展
 ⑹国家が国民政治の実現を目指していく際に、国軍の国民政治への参画を可能とすること

第7条
 国家は、真正かつ規律正しい複数政党制民主主義制度を実践する。

第8条
 国家は、連邦制度で構成される。

第9条
 ⑴既存の7管区・7州を7管区域・7州とし、各管区域・州を同格とする。
 ⑵7管区域・7州の名称は、現在のままとする。
 ⑶管区域・州の名称を変更する必要がある場合には、当該管区域・州の居住民の意思を確認の上、法律を制定し変更する。

第10条
 国内にある管区域・州、連邦直轄区域、自治区域は、国家の領土の一部であり、国家から分離することはできない。

第11条
 ⑴国家の立法、行政、司法の三権を可能な限り分立させ、相互に作用させることとする。
 ⑵国家の三権を、それぞれ連邦、管区域・州および自治区域に分散委譲する。

第12条
 ⑴国の立法権を連邦議会、管区域・州議会に分散委譲する。また、自治区域に対してはこの憲法が定める立法権について委譲する。
 ⑵連邦議会は、郡及び人口を基に選出された議員と、各管区域・州からそれぞれ同人数の割合で選出された議院の二院制とする。

第13条
 7管区域・7州は、それぞれ一院制の議会を有する。

第14条
 連邦議会、管区域・州議会の代表には、この憲法が定める数に基づき、国軍司令官の提出する名簿に含まれる軍人が含まれる。

第15条
 適当な規模の人口を有する民族は、当該管区域・州及び自治区域の立法に参加する権利を有する。

第16条
 国家の元首及び行政の長は、大統領とする。

第17条
 ⑴国家の行政権を連邦、管区域・州に分散委譲する。また、自治区域に対しては、自治権をこの憲法が定めるところに従い委譲する。
 ⑵連邦、管区域・州、自治区域及び県の行政には、国防、治安及び国境管理等の任務を担うため、国軍司令官の指名する軍人が含まれる。
 ⑶第15条に関連して、管区域・州及び自治区域の立法に参加する権利を有する民族は、主に民族の問題を取り扱うため当該管区域・州及び自治区域の行政について参加する権利を有する。

第18条
 ⑴国家の司法権を連邦最高裁判所、管区域・州高等裁判所及び自治区域裁判所を含む各レベルの裁判所に分散委譲する。
 ⑵連邦に連邦最高裁判所を置く。連邦最高裁判所は、国家の最高の裁判所である。
 ⑶連邦最高裁判所は令状を発する権利を有する。
 ⑷各管区域・州にそれぞれ一つずつ管区域・州高等裁判所を置く。

第19条
 以下の事項を司法の原則とする。
 ⑴法律に従った司法の独立
 ⑵法律が制限する事例を除く公開裁判の実施
 ⑶法律に基づく弁護権と控訴権の確保

第20条
 ⑴国軍は、強固で時代に即した唯一の愛国軍である。
 ⑵国軍は、軍隊に関するすべての事項を独立して監督し処置する権限を有する。
 ⑶国軍司令官は、すべての武装組織の長である。
 ⑷国軍は、国の治安と防衛のため全国民を動員する措置をとる権利を有する。
 ⑸国軍の主要な任務は、連邦の分裂阻止、民族の団結及び国家主権の堅持である。
 ⑹国軍は、憲法の擁護に対し主たる責務を負う。

第21条
 ⑴すべての国民は、憲法の規定する自由、平等、法の下の平等等の権利を享受する。
 ⑵裁判所の許可なしに国民を24時間を超えて拘留してはならない。
 ⑶公共の平和と安寧及び法と秩序の維持は国民の義務である。
 ⑷国民の自由、諸権利、諸利益及び諸義務と諸制限を効果的、確固かつ完全なものにするために必要な法律を制定する。

第22条
 国家は、
 ⑴民族の言語、文学、芸術及び文化の発展のため支援を行う。
 ⑵国家は民族間相互の連帯、友好、相互及び助け合いを発展させるための支援を行う。
 ⑶国家は低開発地域居住民族の教育、保健、経済及び交通等の社会経済開発のための支援を行う。

第23条
 国家は、農民の
 ⑴権利を保護するために必要な法律を制定する。
 ⑵農民の生産する作物が相応の価値を得ることが出来るように支援を行う。

第24条
 国家は、労働者の権利を保護するために必要な法律を制定する。

第25条
 国家は、有識者及び技術者の利益の向上を支援する。

第26条
 ⑴国家公務員は、政党政治に関わってはならない。
 ⑵国家は、公務員の職業の保証、衣食住の充足化、結婚している女性公務員の子育ての権利、退職した公務員の衣食住及び社会福祉等にとって必要な法律を制定しなければならない。

第27条
 国家は、国民文化の発展、強化及び保護のための支援を行う。

第28条
 国家は、
 ⑴国民の教育と保健の向上のため努力しなければならない。
 ⑵国民の教育及び保健に国民を参画せしめるために必要な法律を制定しなければならない。
 ⑶無料の初等義務教育を実施しなければならない。
 ⑷すべての正しい思想・見識と道徳を促進し国家建設に利益となる時代に即した教育制度を実施しなければならない。

第29条
 国家は、機械化農業への転換に必要な技術、投資、機械及び原材料等を可能な限り充足しなければならない。

第30条
 国家は、工業の発展にとって必要な技術、投資、機械及び原材料等を可能な限り充足しなければならない。

第31条
 国家は、失業を減らすため必要な支援を出来る限り行わなければならない。

第32条
 国家は、
 ⑴母子、孤児、戦死した国軍兵士の子供、高齢者、障害者を保護しなければならない。
 ⑵障害を負った国軍兵士が相応の生活を送れるよう、またこれらの者が職業教育を無料で享受できるようにしなければならない。

第33条
 国家は、青少年の愛国心の向上及び正しい思想・見識と5つの力(体力、徳力、智力、財力、慈悲の力)の普及発展を図らなければならない。

第34条
 すべての国民は、公序、倫理、国民の健康、その他憲法上の規定に反しない限りにおいて、良心と信仰の自由が与えられなければならない。

第35条
 国家の経済体制を、市場経済体制とする。

第36条
 国家は、
 ⑴国家自身、各地域の組織、協同組合、合弁企業及び民間企業等のすべての経済主体が国家経済の発展のため経済活動に参加することを認める。
 ⑵特定の個人または団体による市場の独占や価格操作等の公正な経済競争を妨げるような行為及び公共の利益を害するような行動を禁止する。
 ⑶国民の生活水準の向上と一般的な投資の促進のため努力する。
 ⑷経済事業の国有化を行わない。
 ⑸合法的に流通する通貨を廃貨処分にすることを行わない。

第37条
 国家は、
 ⑴国内の土地、国境内における地上・地下、水上及び水面下及び大気圏内のすべての天然資源の所有者である。
 ⑵経済主体による国有天然資源の発掘・利益を管理するのに必要な法律を制定しなければならない。
 ⑶法律に基づき、国民に対して私有財産所有権、相続権、私企業設立権、発明権と特許権等の権利を認めなければならない。

第38条
 ⑴すべての国民は、法律の定めるところにより、選挙権と被選挙権を有する。
 ⑵有権者は、選出した国民の代表を憲法の規定に基づいてリコールする権利を有する。

第39条
 国家は、真正かつ規律正しい複数政党制民主主義の発展のため、政党を組織するための必要な法律を制定しなければならない。

第40条
 ⑴管区域、州、自治区域において憲法の規定に従って行政権を行使できないような緊急事態が発生した場合、大統領はその関連管区域、州及び自治区域の行政権を行使する権限を有する。また、必要に応じて当該管区域、州及び自治区域の立法権を憲法上の規定に従って行使する権限を有する。
 ⑵管区域、州及び自治区域においての生命財産を損ない危険に晒すような緊急事態が発生または発生するのに十分な理由が存在する場合、国軍は憲法上の規定に従ってそれを防止・保護する権限を有する。
 ⑶国家の主権が反乱、暴力等の手段により奪取される、あるいは主権奪取の試みのために連邦の崩壊、主権の喪失等が惹起されるといった緊急事態が発生した場合、国軍司令官は憲法の規定に従って国の全権を行使する権限を有する。

第41条
 国家は、独自の積極非同盟外交政策を実践する。世界平和及び他の諸国との友好関係の維持を目指す。国家間の平和共存の原則を維持する。

第42条
 ⑴国家は、如何なる国をも先駆けて侵略しない。
 ⑵自国内に如何なる国の軍隊の駐留も認めない。

第43条
 如何なる刑罰関係法も遡及効力を有する規定を設ける権限を有さない。

第44条
 人間の尊厳を犯すような刑罰を規定する権限は存在しない。

第45条
 国家は、自然環境を保護しなければならない。

第46条
 憲法規定の解釈、連邦議会・管区域議会・州議会、自治区域が制定した法律の合憲性の精査、連邦・管区域・州・自治区域における行政措置の合憲性の精査、連邦・管区域・州・自治区域の間で発生した憲法に関する論争に判決を下すこと、連邦・管区域・州・自治区域がそれぞれ有する権利・義務に関する当事者間の論争に判決を下すこと及び憲法により権限を委譲された任務の遂行のため、憲法裁判所を設置する。

第47条
 本章の国家の基本原則及び第8条「国民の権利・義務」にある「国家」とは、憲法に基づき、立法権及び行政権を行使する機関もしくは人物を意味する。

第48条
 国家の基本原則は、議会が立法を行う際及びこの憲法を含む各種法律の規定を関係者が解釈する際に従うべき指針となる。

※なお、条文は工藤年博編『ミャンマー軍事政権の行方』の補足資料の日本語訳によるものである。前文及び第2章以下も同様。

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