認知症と遺言
TBSドラマ「俺の家の話」が最終回をむかえてしまいました。
認知症の親の介護などをテーマにしたドラマで、個人的には毎週楽しみにしていたドラマでした。
さて、ドラマの中の話ではありますが、認知症の親の介護というテーマは、多くの家族でも考えるべきテーマの1つかと思います。
そこで、認知症の方が関わる法律問題を少し考えてみたいと思います。
通常、契約をする段階では、その当事者はある程度の意思疎通ができている人物であることが大前提となっています。しかし、認知症の方が契約の一方当事者である場合、意思疎通ができているのかという点を慎重に考えなければなりません。
民法第3条の2は「 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と規定しています。「認知症=意思能力がない」というわけでは必ずしもありませんが、多くの場合は当てはまるのかと思います。
他に、親の預貯金を子が勝手に引き出すということも起こりえます。キャッシュカードを利用して現金を引き出す場合には、暗証番号さえ分かれば簡単に引き出すことができます。自分自身の介護費や生活費の引き出しをお願いしていたかもしれませんが、子が自分の遊興費のためにそれ以上の金銭を引き出すことも起こりえます。実際に経済的虐待として顕在化した事案にも対応したことがあります。
このようなことを防ぐために、成年後見制度というものがあります。
簡単に言いますと、認知症等で判断能力が衰えてしまった方(本人)をサポートするために裁判所が「成年後見人」がを選任し、その「成年後見人」が本人の代わりに契約(施設入所契約など)や預金の引き出しを行います。この「成年後見人」は、年に一度裁判所へ報告が必要になりますので、不必要な引き出しがあれば、裁判所がそれを把握することができます。
また、自分自身がまだ認知症になる前に、将来に備えて「任意後見人」を指定しておく制度(任意後見制度)もあります。ある程度の資産があり、生前の自分自身の財産管理や身上監護を考えておく場合には、この任意後見制度を検討しておくとよろしいかと思います。
一方で、自分自身が死亡した後の財産(遺産)をどうするかを、自分自身の存命中に考えておく場合は、遺言によって行います。
では、認知症の方が遺言をすることは大丈夫なのか、という疑問が起こりうるかと思います。
遺言の際には、遺言能力が必要になりますが、「認知症=意思能力がない」と必ずなるわけでは無いのと同様に「認知症=遺言能力がない」と必ずなるわけではありません。
したがって、認知症の方がした遺言は、必ず無効になる、というわけではありません。
ただし、遺言の内容如何によっては、遺族間で紛争が生じて、遺言は無効であると主張する遺族も出てくるかもしれません。これは認知症になる前にした遺言でも、無効であると主張する遺族がでてくることがあります。認知症の場合は、遺言内容に不満のある遺族も遺言が無効であると主張したくなるとも思います。
そのようなことが起こりえますので、仮に遺言をする際は公正証書遺言をしておく方がよいと思います。その他にも信託などのスキームを利用することもあり得ます。